東京に住んでいると、新宿中村屋へ1度は行ったことがないだろうか。知らない人のために、新宿中村屋は、1901年に創業した食品メーカーである。現在では、レストラン経営や中華まん・カレー販売など事業は多岐にわたる。
新宿中村屋に多くの芸術家が出入りするようになり、後年「中村屋サロン」と呼ばれた。サロンとは、文化人の交流場を指す。
中村屋サロンの中心人物であった中村彝。「彝」、何と読むのか疑問を抱いた人が大半だと思う。もし読めた人はスゴイ、漢字検定1級の難しさだから。正解は、「つね」。
その中村彝が晩年構えたアトリエは、現在も新宿区に残っている。
本日の訪問先
『中村彝アトリエ記念館』
実際に使用していたアトリエが、復元整備されている。複製原画や、中村彝についての展示解説もある。
入ってすぐ、まるで玄関のような入り口になっている。よく見ると、小さいが「中村」の表札もついている。
中村彝について
1887年 、現在の茨城県水戸市で五人兄弟の末っ子として生まれる。
1898年、父と母が死去したため、東京都にいた長兄のもとへ転居。
幼少期から軍人を目指すが、結核のため、その道をあきらめる。療養地で絵を描くようになり、洋画家を志す。
1911年、新宿中村屋の夫妻の厚意で、中村屋の裏にある画室に住むことに。
1916年、新宿区下落合にアトリエを構える。
1924年、死去。
管理棟(展示室)
中村彝のデスマスク、有名な「小女」の絵、年表など展示されている。
残念ながら、絵画は全て複製。しかし、大日本印刷株式会社の技術によって、本物の絵画のような出来栄えになっている。
中村屋サロンについて
中村屋サロンの始まりは、新宿中村屋の近くに碌山がアトリエを構え、中村屋へ足繁く通ったことである。そして、碌山を慕う、多くの芸術家が、同様に中村屋へ出入りするようになった。
碌山、本名は荻原守衛。明治を代表する彫刻家である。「碌山」は号であり、
本名とは別の名前。それゆえ、荻原碌山ともいう。
新宿中村屋の創業者である相馬愛蔵。芸術に深い造詣があったため、その自宅には、碌山をはじめ、多くの文化人らが出入りした。
まるでサロンのようであったため、後年、「中村屋サロン」といわれるようになったのである。
当初サロン中心人物となったのは、相馬愛蔵と同郷の碌山であった。しかし、30歳の若さで亡くなってしまい、その後中村彝が中心になる。
アトリエ棟
エロシェンコをモデルにした絵
エロシェンコは、「盲目の詩人」と呼ばれたロシア人。 (正確には、現ウクライナ)
幼いころに失明し、盲学校へ。日本では盲人が自活しているという話を聞き、日本へ来た。中村屋サロンで中村彝と出会い、絵のモデルになった。
アトリエ風景
中村彝が居た当時の様子を再現している。絵の中に描かれた椅子も、実際に置かれている。
アトリエ天井
天井まで木製。大きな窓があり、太陽光がサンサンとふりそそぐ。
アトリエの壁
壁のくぼみのスペースが、洋館をより洋館らしくさせている。
絵の具あと
アトリエとして使用していたため、床に飛んだ絵の具が、今なお残っている。
きいの部屋
中村彝の世話をしていた「きい」が住んでいた部屋。「和」の畳・襖、「洋」の窓・壁。この二つが組み合わさった、和洋折衷になっている。
敷地内
中村彝のパネル
最近作ったのかと思えるぐらいとても綺麗だった。それか、雨の日は出してないのかもしれない。
井戸
アトリエ全景
屋根の飾り
屋根についている、棟飾り。クルクルが、芸術家のアトリエっぽい良い味を出している。
まとめ
中村彝、新宿中村屋で相馬夫妻のお世話になったが、「小女」のモデルである長女・俊子と惹かれ合い、次第に夫妻から距離を置かれるようになった。
中村屋を出た後は転々とし、俊子との恋も実らず、終の棲家である下落合のアトリエへ。現・中村彝アトリエ記念館である。
死後建物は、同じく芸術家である鈴木誠が所有し、増改築された。
参考までに、記念館は、増改築された建物を解体し、当時から残る部材を使い、建築当初の姿に復元したものである。そのあたりの解説は、管理棟に詳しく書かれているが、見落としそうな展示になっている。
彝と同時代このあたりは、新興住宅街であったため、アトリエを持つ芸術家は多かった。
アトリエ巡りをしながら、当時の暮らしぶりを垣間見る。そして、休憩がてら、あるいはご飯に、新宿中村屋へ行くと、いっそう味わい深いものになるだろう。
今日「中村屋サロン」は残っていないが、新宿中村屋ビルの3階に中村屋サロン美術館がある。そちらも合わせて、訪れてみてはいかがでしょうか。
中村彝アトリエ記念館
開館時間:10時30分から16時30分まで
休館日:年末年始、毎週月曜(祝日の場合、翌日)
入館料:無料
電話番号:03-5906-5671
住所:東京都新宿区下落合3-5-7
JR山手線「目白駅」より徒歩10分
併設カフェ:なし
併設ショップ:あり、関連書籍販売がメイン
図書コーナー:関連書籍は置かれているが、数は多くない
駐車場:なし
サービス:多機能トイレあり、階段はあるが車イス用昇降機あり
公式サイト:https://www.regasu-shinjuku.or.jp/rekihaku/tsune/40357/
地図: